1605年と1607年に出版されたT.ヒューム(ca.1569-1645)の2つの作品集は、この作曲家を理解するための貴重な資料です。軍人だったということ以外には彼の生涯については謎に包まれていますが、それでもこの2つの作品集からは様々なことが見て取れます。その中からヒュームのヴァイオル音楽を理解する上での手掛かりになりそうな文言をここに紹介します。
*『The First Part of Ayres エア集第1巻』(1605)の表紙より:
Ayres… for two Base Viols, expressing fiue parts, with pleasant reports one from the other
互いに心地よく奏でながら5声を表現する2台のバス・ヴァイオルのためのエア…
… two Leero Viols, and also for the Leero Uiole with two Treble Violes, or two with one Treble
2台のリラ・ヴァイオルもしくは1台のリラ・ヴァイオルと2台のトレブル、もしくは2台[のリラ・ヴァイオル]と1台のトレブル
Leero Viole to play alone, and some Songes to bee sung to the Viole, with the Lute, or better with the Viole alone
リラ・ヴァイオル独奏曲、ヴァイオルとリュートで伴奏する歌曲、ただしより良いのはヴァイオル1台による伴奏
Inuention for two to play upon one Viole
1台のヴァイオルを2人で弾くためのインヴェンション
*『Captaine Humes Poeticall Musicke ヒューム大尉の詩的音楽』(1607)の表紙より:
3. The third musick, for three Basse-Viols to play together.
第三の音楽:3台のバス・ヴァイオルが一緒に
4. The fourth musicke, for two Tenor Viols and a Basse-Viole.
第四の音楽:2台のテノール・ヴァイオルと1台のバス・ヴァイオル
5. The fift musicke, for two Lutes and a Basse-Viole.
第五の音楽:2台のリュートと1台のバス・ヴァイオル
6. The sixt musicke, for two Orpherions and a Basse-Viole.
第六の音楽:2台のオルファリオンと1台のバス・ヴァイオル
各表紙ではこのように収録作品の使用楽器とその組み合わせが示されています。これらを読むと、ヒュームはリラ・ヴァイオル、テノール・ヴァイオル、リュート、オルファリオンの各種楽器がバス・ヴァイオルと類似した性格をもち、時には置き換え可能だと見なしていることがわかります。さらに2台のバス・ヴァイオルで5声の響きを表現できると考えているとも読めます。
もう一つ見てみましょう。
*『エア集第1巻』(1605)「読者へ」より:
If you will heare the viol de Gambo in his true Maiestie, … , then string him with nine strings, your three Basses double as the Luth, …
もしヴィオラ・ダ・ガンバがもつ本来の荘厳さを聴きたければ、(…)あなたの楽器の下3本の弦をリュートのようにダブルにして、計9本の弦をはるといいでしょう
仮にヒュームが推奨する通りに複弦を張ると、弓で弾くのは難しそうですが響きが増幅するのは間違いないでしょう。こうした撥弦楽器のような効果を想定していたと考えると、通称「二人羽織の曲」として知られる「The Prince Almayne王のアルメイン」も、一台のヴァイオルを二人で弾くという独特の構え自体が目的なのではなく、あくまでヴァイオルの可能性を追求するための実験だったのだろうと考えられます。
さらにヒュームの『エア集第1巻』表紙が、その8年前に出版されたダウランドの曲集の表紙によく似ていることも注目すべきでしょう。
*『The first booke of songs or ayres 歌とエア集第1巻(1597)』表紙より:
The first booke of songs or ayres of foure partes with tableture for the lute : So made, that all the parts together, or either of them seuerally may be sung to the lute, orpherian or viol de gambo… Also an inuention by the said author for two to play vpon one lute
リュートのためにタブラチュア譜で書かれた4声の歌とエア集第1巻
全て声部で一緒に、もしくはいくつかの声部で演奏してもよい。いくつかの曲はリュートやオルファリオン、ヴィオラ・ダ・ガンバに合わせて歌うことができる…
1台のリュートを2人で弾くためのインヴェンション
これらから推測できるのは、ヒュームがダウランドやリュートを意識していたということです。さらに言えば、ヒュームは和音を持続させられることからヴァイオルがリュートよりも優れていると考えていたのかもしれません。またこのように野心的な作品集を作ることで、ジェームス1世やアン王妃らの興味を引こうとしていたのかもしれません。
さて、長くなりましたが、今回のぼんぐぅサロンのテーマは「イギリス」です。ヒュームの言葉を借りれば「歌や管楽器が加わって、すべての楽器で合奏する」形式でお届けいたします。皆様ぜひお出でください。
田中 孝子

