私とチェンバロ その1  【岩田耕作】

チェンバロという楽器の原型が発明されたのは14世紀末から15世紀初頭にかけてと考えられますが、ポピュラーな楽器になったのは16世紀に入ってから、そしてピアノ・フォルテにその座をとってかわられる18世紀後半までの300年弱がチェンバロの時代と言えます。この間様々なタイプの楽器がヨーロッパ各地で作られますが、時代が進につれて、だんだん大きくなっていく傾向にあります。これは音楽が、より大きな音、重厚な低音を求めるようになっていったからです。今日、もっともよく作られているタスカンやドゥルケンといった2段鍵盤の大型のチェンバロは、18世紀半ば以降のモデルで、チェンバロの歴史の中では最後期の部類に属します。

写真の楽器はオッタヴィーノ・スピネットと呼ばれる16世紀のチェンバロ。幅68cm、奥行き41cmという超小型です。チェンバロでいう4フィート(実音のオクターブ上)の音になっています。私が持っているこの楽器は、アーリー・ミュージック・ショップでかつて売られていたキットを組み立てたものです。もう20年以上前になりますが、私がフランスに留学していたころ、前記のパリ支店が閉店してしまったのですが、このキットが在庫処分で安売りされていたのを、私と同じチェンバロの先生についていた友達が見つけて知らせてくれました。彼女は私がそのころルネサンス音楽に使えて持ち運びがしやすいオッタヴィーノを探していたのを知っていて知らせてくれたのですが、それと同時に彼女は一度チェンバロを組み立ててみたいと思っていました。そこで私がこのキットを買ったら彼女が組み立ててくれるということで話がまとまりました。ところが私が日本に帰るまでに楽器を仕上げることができなかったため、最後の鍵盤やジャックの調整や、ボイシングなどは私が自分でやることになりました。

我々チェンバロ奏者の永遠の悩みは楽器の運搬です。大きな楽器を買っておけばなんでも弾けるという、お弁当箱の原理でチェンバロを選ぶと、結局コンサートには出せないということになってしまいます。それに反して、このオッタヴィーノは、専用のハードケースまでついていて、バスや電車でも運べるという気軽さ。レコードもスマホもなかった時代、ヨーロッパの王侯貴族たちは、旅先にこのような楽器を持ち運んで、音楽を楽しんでいたのかもしれません。

 

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