コラム② ロンドンのオペラ劇場バトル【田尻 健】

「ヘンデルとライバルたち」のぼんぐうサロンvol.19まで1週間ほどになりました。
コラム第二弾は「ロンドンのオペラ劇場バトル」です!
こちらを読んで 6/22(土)のぼんぐうサロンに是非是非、お越しくださいませ。

【ヘンデル vs ボノンチーニ】
イギリスに渡ったヘンデルはオペラ「リナルド」を始め、着々と成功を納めていました。イギリスではイタリア語のオペラ人気が高まっていて、1719年に王室の出資したオペラ・カンパニー「国王音楽アカデミー」が設立、ヘンデルも作曲家、オーケストラ楽長として参加します。ヘンデル以外にも4人の作曲家がいて、中でもボノンチーニはヘンデルと人気をニ分するほどでした。
ジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニ(1670-1747)はイタリア出身の作曲家で、父も弟も作曲家という音楽家の家系で、若くしてオペラを作曲し、ミラノ、ローマ、ヴェネツィア、ベルリンと各地でオペラ上演を行い、人気を博していました。その名声はロンドンにも届き、アカデミーの参加となりました。1722年にはオペラ「グリセルダ」を上演。この台本も人気で、A. スカルラッティ、A. ヴィヴァルディも同名のオペラを作曲しています。大人気のボノンチーニでしたが、マドリガル盗作疑惑のスキャンダル、またジャコバイト党の貴族と親しかったため、王室派のアカデミーは彼を疎み、1733年にロンドンを去ることとなります。
かたやヘンデルの名声は止まることを知らず、イギリスでのオペラ作曲家としての地位を確立しました。
ヘンデルはボノンチーニの音楽を認めており、あの有名なオンブラ・マイ・フは、ボノンチーニのオペラ「セルセ」(1694年)の同名のアリアを下敷きに作られています。ぼんぐうサロンvo.19ではボノンチーニとヘンデルの両アリアを演奏しますので、聴き比べをお楽しみに。


【ヘンデル vs 歌手】
1729年に国王音楽アカデミーは経営不振のため閉幕、歌手の多大な報酬が原因でした。有名歌手はプライドが高く、歌手同士のいざこざは日常茶飯事。気に入らない曲や台本の書き換え、差し替えを平気で要求する等、やりたい放題でした。しかしヘンデルはこういう歌手の傲慢を許さず、断固戦ってきました。
フランチェスカ・クッツォーニ(1696-1778)はイタリアでも売れっ子のソプラノで、1723年よりアカデミーに参加し、一気にプリマの座につきます。明瞭で甘美な高音を持ち、ゆったりとした情感豊かなアリアを得意としていました。ヘンデルも彼女の歌声を気に入っており、オペラ「ジュリオ・チェーザレ」のクレオパトラは彼女のハマり役でした。
そんなクッツォーニもヘンデルとは当初衝突していました。彼女はオペラ「オットーネ」のリハーサル中、冒頭の通奏低音のみのアリアを歌うことを拒否します。ヘンデルと激しい口論になり、歌わないなら窓から放り出す、と言って強引にアリアを歌わせた逸話があります。実際に歌ってみるとこのアリアの味わい深さを気に入り、後年、我が子の子守唄に歌って聴かせたそうです。まさにヘンデルの音楽の勝利とも言えるでしょう。


【ヘンデル vs ポルポラ】
第1期国王音楽アカデミーの失敗を糧に、ヘンデルは第2期に臨みます。有名歌手の横暴さに辟易していたので、無名でも潜在能力のある歌手を自らの手で育てていきました。第1期に比べると質素な歌手陣で、技術的な問題もありオペラは不評でした。英語オラトリオも公演演目に加え、いくつかヒット作を出すも、第1期のような人気はありませんでした。そこに反ヘンデルの貴族たちがウェールズ皇太子を頭として「貴族オペラ」を設立、それは現国王の旧体制への反抗でもありました。
貴族オペラの契約歌手は第1期アカデミーで活躍したセネジーノ、クッツォーニ、そして新たに人気歌手ファリネッリと、豪華な顔ぶれ。オペラ作曲家として契約したのはイタリアで名を馳せていたポルポラでした。
ニコラ・ポルポラ(1686-1768)はイタリアで作曲家もさることながら、教育者として名声を得ていました。彼の教え子にはカストラート歌手ファリネッリ、後年にはウィーンでハイドンにも教えています。
貴族オペラはポルポラのオペラ「ナクソスのアリアンナ」を公演したのに対し、ヘンデルは同じ題材のオペラ「クレタのアリアンナ」を公演、双方火花を散らします。第2期アカデミー終了後、ヘンデルは独立興業主となり、貴族オペラとのバトルは続行されます。ポルポラは1735年、オペラ「ポリフェーモ」で教え子ファリネッリを登用します。ファリネッリが歌ったアリア「偉大なジョーヴェ」は今も人気があり、ファっジョリやジャルスキー等、現代の名カウンターテナーで歌われています。
人気歌手を奪われたヘンデルは器楽付きレチタティーヴォや、バレと合唱の起用など、新しいオペラの形を模索していました。そして誕生したのが魔法オペラの傑作「アルチーナ」です。この時にテノールで参加したのが、ジョン・ビアードで、オラトリオ「メサイア」を初めとして後のヘンデル作品の名テノールとして活躍していきます。ソプラノやカストラート優位のイタリア・オペラでは珍しく、テノールに良いアリアが書かれています。
この対決の結末は両者共倒れの引き分けでした。1737年6月には両会社とも解散し、ポルポラはロンドンを去ります。ヘンデルも一人で作曲から演奏、経営までこなしていたので、最後には病で倒れてしまいます。この辺りからオペラから手を引き、オラトリオへと作曲の軸を変えていきました。

ぼんぐうサロンvol.19では、お話も交えて、ヘンデルとライバルたちの戦いをアリアを通して描いていきます。聴衆の皆さんによる投票で最後の曲が決まるリアル対決もございます。どうぞお楽しみに。

参考文献:
⚫︎三ヶ尻正 ヘンデルが駆け抜けた時代 春秋社
⚫︎三澤寿喜 ヘンデル 音楽之友社

【公演情報】
ぼんぐうサロンvol.19
ヘンデルとライバルたち〜ロンドンのオペラ劇場バトル
2024年のぼんぐうサロンは作曲家の人間関係に迫ります!第2回目はヘンデルとライバルたち。ロンドンで繰り広げられたオペラをめぐる火花散るバトル。作曲家だけでなく歌手同士も激しく競い合います。
そしてプログラム最後の曲は会場の皆さんの投票によって決定!勝つのはヘンデルか、それともライバルたちか!?どうぞお楽しみに!

日時: 2024年6月22日(土) 14時開演
場所: メディアファイブサロン
出演者:
ソプラノ: 中川詩歩
テノール: 田尻健
ヴァイオリン: 濱田佳寿江、松岡祐美
チェンバロ: 西野晟一朗

プログラム:
⚫︎G.F. ヘンデル (1685-1759)
歌劇 くジュリオ・チェーザレ> より「この胸に息のある限り」
⚫︎G.B. ボノンチーニ(1670-1747)
歌劇 <セルセ> より「優しい木陰よ」
⚫︎N. ポルポラ (1686-1768)
歌劇 くカルロ・イル・カルヴォ> より「私を新地に追いやりたいのね!」
⚫︎F.M. ヴェラチーニ(1690-1768)
歌劇 <シリアのハドリアヌス帝>より「あの抱擁、あの許し」  他

入場料:
一般 ¥3,500 学生 ¥1,500
(ワンドリンク付き)
お申し込みはこちら↓
https://bon-gout.org/ticket-reservation/

主催: ぼんぐう
協賛: メディアファイブ株式会社
後援: 福岡市、新・福岡古楽音楽祭

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