はじめまして、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の田中孝子です。
今回はガンバにとって非常に大切な作曲家である、フォルクレについてお話ししたいと思います。
アントワーヌ・フォルクレのヴィオール作品は技巧と優美さを兼ね備えています。私は長年「マラン・マレは天使のように弾き、アントワーヌ・フォルクレは悪魔のように弾いた」という、ガンバ奏者の間ではよく知られた言い伝えの正確な意味がわかりませんでした。なぜなら、彼の作品について私が抱く印象は、「悪魔」という表現とはどうしても結びつかないからです。これは演奏上の難しさを表しているのでしょうか。
このフレーズは、ユベール・ル・ブランというヴィオール愛好家が書いた『ヴァイオリンの台頭とチェロの野望に対するヴィオール擁護論』(1740)の中に見られます。
ル・ブランは、フォルクレを、ヴァイオリンの運指の技術をヴィオールにあてはめた最初の奏者としています。その一方で、冒頭の「悪魔」という表現が激しい弾き方や技巧性の高さを表しているかどうかは明確ではありません。著者自身も含め、フォルクレの大胆な試みに当初否定的だった人々が、一時的な感情から放った言葉だと考えることもできます。実際ル・ブランは同じ著作の中で、マレとフォルクレを同列に並べ「思うままに弓を空中で遊ばせ、弦を振動させ、たった一音から教会の鐘のような響きを作っていた。」と褒め称えています。それにもかかわらず、あたかも両者が対照的であるような印象を与える冒頭のフレーズだけがいつのまにか一人歩きを始め、250年の時を越えて残ってしまいました。
上記のことから、私たちがフォルクレの作品を弾く時に、「悪魔」という言葉を作品解釈に安易に当てはめてしまうのは早計だと考えています。
2023年4月 田中孝子
以下の動画はA.フォルクレ作曲 / 組曲 ト長調より「ラ・ルクレール」です。演奏は田中孝子による多重録音です。どうぞお楽しみください。