コラム① 「ヘンデルに見る成功の秘訣」【田尻 健】

「ヘンデルとライバルたち」のぼんぐうサロンvol.19先立ちまして、コラムをお送り致します。
こちらを読んで 6/22(土)のぼんぐうサロンに是非是非、お越しくださいませ。

第一弾は「ヘンデルに見る成功の秘訣」です。

ヘンデルは言わずと知れた作曲家ですが、当時から人気があり、死後もその人気は途絶えることはありませんでした。生前人気があっても死後忘れ去られた作曲家が多い中、何故、ヘンデルは生き残ったのでしょうか?
音楽が素晴らしいのはもちろんそうなのですが、それ以外の理由をいくつか紹介していきます。

①ビジネス感覚、処世術
ヘンデルは若い頃、ハレの街の法学部(当時、商業活動に必要な知識を得るための一般的な学部)にて学びました。ここで学んだビジネス感覚は、後の会社の経営や資産運用などに大きく役立っています。彼は巧みな金策のおかげで生涯お金に困る事はありませんでした。
またヘンデルは、作曲家であり外交官でもあったマッテゾンやステッファニと親交が深く、様々な会合に参加する中で彼の処世術は磨かれていきました。メディチ家のフェルディナンドは彼を推薦する際「礼儀正しく、誠実で、言語に長けている」と評しています。

②時流を読む
ヘンデルは時流を読む力に非常に長けていました。
ヘンデルの生きた時代、音楽は純粋な芸術ではなく、政治や外交の手段であり、行事毎に作曲される「機会音楽」でした。作曲家に求められるのは、クライアント(王侯貴族)の意図を汲み取った作品を書き、音楽を使って最大限、その意図を聴衆に伝える事。
ヘンデルは英国王室の加護はあったものの、宮廷や教会所属の音楽家ではなく、フリーな立場であり、王室、反王室、政権与党、野党、そして聴衆がその時求めるものを敏感に感じ取り、作品をヒットさせています。当時の音楽、特に劇場音楽は政治的な比喩がありました。
例えば、王朝問題で王室と対立していたジャコバイト派が台等していた頃は、ジャコバイト派の作家ジェネンズと組んで、オラトリオ「サウル」や「メサイア」を作曲していますが、後にジャコバイトの乱が制圧された際には戦勝祝いにオラトリオ「ユダス・マカベウス」を作曲しています。

③不朽の名作
後世に名を残すきっかけとなったオラトリオ「メサイア」は作曲当初はジャコバイト派の衣を着た音楽でしたが、ヘンデルはジャコバイト派の衰退後、その意図から切り離して、1750年から毎年、孤児養育院のチャリティーコンサートで「メサイア」を演奏しました。こうして「メサイア」は純粋な芸術音楽として生まれ変わります。
生前36回も公演され、死後も演奏してもらうため楽譜をしっかり残した事もあり、後にCPE. バッハが好んで演奏し、W.A. モーツァルトが編曲しています。メサイアから影響を受けたオラトリオはハイドンの天地創造をはじめとして数多く存在します。
またテキストも全世界のベストセラーの聖書から取られているので、どの時代・どの国でも受け入れやすく、そして曲の難易度もあまり高くなく、アマチュアの方にも取り上げやすいのも、この曲の人気の秘訣だと思います。後世に残る作品を意図的に残した訳ではないと思いますが、これだけ長い間愛されている作品は稀です。
以上の事が組み合わされ、ヘンデルは生前だけでなく死後今に至るまで人気の作曲家として名を残しています。
常に色んな方向にアンテナを張り、情報を収集し、時流を読み、周りに気を配る、しかし大胆に決断し行動する。これは現代のどんな分野においても共通する内容ですね。こういうビジネス本、売れそうです。

次回はコラム②「ロンドンのオペラ劇場バトル」です。お楽しみに。

参考文献:
⚫︎三ヶ尻正 ヘンデルが駆け抜けた時代 春秋社
⚫︎三澤寿喜 ヘンデル 音楽之友社


【公演情報】
ぼんぐうサロンvol.19
ヘンデルとライバルたち〜ロンドンのオペラ劇場バトル
2024年のぼんぐうサロンは作曲家の人間関係に迫ります!第2回目はヘンデルとライバルたち。ロンドンで繰り広げられたオペラをめぐる火花散るバトル。作曲家だけでなく歌手同士も激しく競い合います。
そしてプログラム最後の曲は会場の皆さんの投票によって決定!勝つのはヘンデルか、それともライバルたちか!?
どうぞお楽しみに!

日時: 2024年6月22日(土) 14時開演
場所: メディアファイブサロン

出演者:
ソプラノ: 中川詩歩
テノール: 田尻健
ヴァイオリン: 濱田佳寿江、松岡祐美
チェンバロ: 西野晟一朗

プログラム:
⚫︎G.F. ヘンデル (1685-1759)
歌劇 くジュリオ・チェーザレ> より「この胸に息のある限り」

⚫︎G.B. ボノンチーニ(1670-1747)
歌劇 <セルセ> より「優しい木陰よ」

⚫︎N. ポルポラ (1686-1768)
歌劇 くカルロ・イル・カルヴォ> より「私を新地に追いやりたいのね!

⚫︎F.M. ヴェラチーニ(1690-1768)
歌劇 <シリアのハドリアヌス帝>より「あの抱擁、あの許し」  他

入場料: 一般 ¥3,500 学生 ¥1,500(ワンドリンク付き)

申し込みはこちら↓
https://bon-gout.org/ticket-reservation/

主催: ぼんぐう
協賛: メディアファイブ株式会社
後援: 福岡市、新・福岡古楽音楽祭

 

関連記事

古楽情報カテゴリ

言語を選択