先の9月中旬、韓国チュンチョン(春川)市にて「第26回チュンチョン古楽フェスティバル」が行われ、筆者(太田)はフランクフルト国立音楽大学時代の友人の招きを受けて演奏参加してきたのでその様子をレポートします。
かつての大ヒット韓流ドラマ、「冬のソナタ」の舞台として知られる街、チュンチョン(春川)。ソウルから車で2時間、山岳地帯を抜けると現れる韓国の古都である。異国の地でまず成さねばならぬこと、それは当地の郷土料理、でれきば地酒を味わうことである。そこには当地の文化・歴史が凝縮している。ということで、まずはチュンチョン出身のリコーダー奏者の友人に連れられ、ご当地料理の「タッカルビ」(鶏モモ肉を甘辛く鉄板で炒めたもの)を堪能する。
うん、香ばしさと甘辛さが鉄板の上で豪快に絡み合い、ビールと共に味わえば満腹になるまで箸が止まらない逸品である。こうして私は、この街にしっかりした味わいある歴史と伝統があることを確かめることができた。
さて、今年で26回目を迎える当フェスティバル、海外からの奏者(今年のゲストはリコーダー奏者Dorothee Oberlinger)による演奏会や、韓国の若手(ライジング・スター演奏会)、アジアの奏者が集い行われる様々な7つの演奏会、セミナーが2週間にわたり行われた。初めの7年ほどは当地のリコーダー奏者であるジンヘ・チョウ氏の主導のもと「チュンチョン・リコーダーフェスティバル」として始まったとのこと。演奏会場で、創立者であるチョウ氏にお目にかかることができたことは幸運だった。今回の総ディレクターはヴァイオリン奏者のHyunjung Choi氏。ここでは2年ごとに総ディレクタ
ーを入れ替えることで、多くの演奏家に思い通りのイベントを企画するチャンスを与える仕組みになっている。当然フェスティバルの内容もディレクターによって変化するので、マンネリ化を予防する効果もある。
参加して一番に思ったことは、参加している聴衆の皆さんの熱気、である。とにかく熱狂的で、良い演奏があると割れんばかりの喝采である。筆者の地元福岡の聴衆の皆さんも日本ではかなり反応の良い方だと思うのだが、ちょっと桁違いだ。。また演奏家、聴衆の年齢層が若い。韓国の友人に言われせれば「日本での古楽の歴史は韓国よりもずっと長いので羨ましい」とのことだが、それも一長一短のような気もする。それと韓国には教会が多いので、響きの良い会場にも事欠かない。ヨーロッパさながらの雰囲気の中で演奏会を聴くこともできた。
筆者が参加した演奏会は、9月16日、友人であるリコーダー奏者ヒョーウォン・リーと、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者ユーンジ・ソンとのトリオでの演奏。「子供の為の」と銘打った演奏会で、中には養護施設の子供たちも10人程度来ていたようだ。カッコウ・ソナタなどより親しみやすい曲もあったとはいえ、テレマンのトリオ・ソナタなど「真面目な」曲も多々あったのだが、100名程度の親子の聴衆の皆さん、最後まで集中して聴いていただいた。途中のMCではこちらの問いかけに大きな声で反応してくれ、奏者としても大いに楽しんで参加することが出来た。
韓国で出会った多くの皆さんには、今回本当に温かく接していただいた。心よりの感謝を申し上げたい。今後もっともっと、日本、特に最寄りの県である福岡において両国の交流がふかまることを期待する。
後日談として、今回共演した学友のヒョーウォン、ユーンジ、また加えてやはりフランクフルト時代の学友である台湾のフルート奏者、チーシェンは10月に福岡を来訪、共に「新・福岡古楽祭」に参加、17日には演奏会を終えたところだ。古楽を通したアジアの交流、福岡の地で今後も大いに育んでいきたい。