古楽に導かれて 【濱田 佳寿江】

初めまして、バロックヴァイオリンの濱田佳寿江です。去年の6月ぼうぐうサロンvol.19「ヘンデルとライバルたち」で演奏致しまして、今年も8月3日ぼんぐうサロンvol.23「おしゃべりな南国生まれの器楽曲たち」にて弾かせていただくことになりました。

お仲間に加えてくださり、古楽奏者として演奏の機会をいただけることを心より感謝しております。今回は自己紹介とコンサートに寄せてコラムを書きましたので、ご興味やご質問等ありましたら、当日会場にてお声がけいただければ幸いです。

私が古楽に興味を持ったのは、バッハの無伴奏曲を演奏するにあたり様々な文献を読んでいた20代前半です。オーストリアのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であり指揮者としても活躍したニコラウス・アーノンクール(1929~2016)著「古楽とは何か」との出会いに始まります。古楽的な演奏解釈のヒントを得て、目から鱗のような発見も多く、知れば知るほど新鮮で奥深い古楽の世界観に魅了されてしまいました。

↑ニコラウス・アーノンクール著「古楽とは何か」
幼い頃からモダンヴァイオリンを学んできた私にとって、バッハが作曲していた時代に奏されていた古楽器に対する興味も当然募ります。バロックヴァイオリンで演奏すれば本来の響きに近づけるのではないか、どのような響きだったのか知りたいという憧れに近い探究心から、古楽器で録音された音源を好んで聴くようになりました。

そんな折、福岡古楽祭の講習会にモダンで受講生として参加し、貴重なレッスンを受けながら、やはり古楽は片手間では学べないという現実に直面します。古楽器を手に入れて学ぶのは、20年ほど前の日本では難しかったこともあり、いつか本場でバロックヴァイオリンを学べたら良いなという気持ちを、しばらく燻らせていました。
ヨーロッパの夏期講習会に参加すると、改めて語学力の重要性を痛感します。留学を目標にドイツ語の勉強は続けていたものの、長期的に滞在する費用もありません。友人からのアドバイスで、大学間の交換留学制度を利用すれば海外に長期滞在できると知り、鹿児島大学の法文学部人文学科ドイツ文化コースに編入学しました。それ以前に短大の音楽科を卒業後、演奏活動や講師をしていたため、大学編入後は仕事をセーブして、留学のための準備に努めました。晴れて交換留学生としてミュンヘン大学へ。最初はドイツ文学の講義もちんぷんかんぷんでしたが、ドイツの音大受験について直接現地で調べたり、気になる教授のクラスコンサートを聴きに行くなど、一年間とても有意義に過ごすことができました。

↑ミュンヘンの市庁舎(上)、聖母教会(下)
鹿児島大学を卒業後、再渡独して、ようやくトロッシンゲン音楽大学の古楽科に入学します。この時すでに30代半ば、遠回りしながらも念願だった古楽を勉強できることが嬉しくて、暇さえあれば図書館の貴重な古い楽譜たちを眺めて、弾いてみたい曲を選んではコピー収集していました。

あっという間に2年が経ち、中間試験を終えた頃、せっかくならドイツ以外でも古楽を学びたいと思い、エラスムスというヨーロッパ間交換留学制度を利用してベルギー王立ブリュッセル音楽院へ。フランスものに疎かったため、奏法や独特な装飾音符の歌い方を学び充実した一年でした。


↑トロッシンゲン音大
4枚目の写真:右側建物の3階に図書館

トロッシンゲン音大卒業後は、ミュンヘンに戻り音楽学校でモダンヴァイオリンを教えつつ、バロックヴァイオリンでの演奏活動を続けておりました。古楽編成でのオーケストラは、教会でのミサや受難曲のために需要があり、音楽の背景にある宗教的知識も必要です。歌詞の理解もアーティキュレーションを決める上で大きな手助けとなるので、発音に配慮した運弓を考える過程が難しくもあり非常に楽しく刺激を受けました。この作業に時間をかけて大切に考えることが、語るように弾くための鍵だと思っています。約12年ドイツとベルギーで多くの良い出会いに恵まれ、様々な演奏の場を与えていただき経験を積むことができたこと、かけがえのない幸運な出来事に感謝して、2023年の秋に完全帰国しました。

ベルギー↑
1枚目:ブリュッセル王立音楽院の建物
2〜4枚目:エラスムスの家

あまりに長い自己紹介となってしまいましたが、どこに居ても心がけ次第で道が拓けると信じている私は、今年の6月佐賀に嫁ぎました。田植えのお手伝いで土の柔らかさを知り、驚くほど大きな野鳥の悠々と飛ぶ姿や、軽トラックの荷台に吹く風の心地良さ、大自然の美しさを味わえて幸せです。

最後に8月3日のコンサートの見どころをお伝えして締め括ります。イタリアの初期バロックに焦点を当てたプログラムで、装飾やカデンツに典型的なパターンと特徴があるためフレーズの終わりに注目です。誰かが何かしらディミヌツィオーン(独:即興的な装飾)を施すはずなのでお楽しみください。加えてヴェネツィアのサン・マルコ寺院でヴァイオリニストを務めていた作曲家カルロ・テッサリーニ(1690~1766)のデュオ作品は珍しく、演奏される機会も稀で個人的に思い入れがあります。また、副題の「おしゃべりな南国生まれの器楽曲たち」に込めた想いを、会場にて太田耕平さんが語ってくださいますので、お楽しみに!

紆余曲折ありながらも古楽に導かれ、時代を逆走しながら埋もれた作品の発掘に取り組む奏者にとって、当時の響きの再現を試みることは常に挑戦です。だからこそ面白さがあり、素朴で独特な音色に少しでも興味を抱いていただければ嬉しく思います。

ぼんぐうサロンでは、コンサートの休憩中や終演後に、お越しいただいた皆様と談笑できるお時間もございますので、ご来場お待ちしております。

濱田 佳寿江

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