飛翔するカウンターテナー

第3回 <飛翔するカウンターテナー>

こんにちは、歌コラム担当の田尻です。

先日行われたコンセール・エクラタン福岡の<古楽シリーズ vol.14 音楽のひととき〜飛翔するカウンターテナー〜 >、私は久留米公演を聞かせてもらいましたが、聴きに行かれた皆様、いかがでしたでしょうか。

先日の私のコラムで紹介した“カウンターテナーの魅力”を中嶋俊晴さんは丸々余す事なく伝えてくれました。いえ、それ以上のものを魅せてくれたのではないでしょうか。

 ヘンデルのオペラアリアでは、カストラート達が披露したであろう妙技を見事に歌いあげており、何度心の中でブラボーを叫んだ事か。そしてパーセルのアリアでは一転、繊細で美しい世界を見せてくれました。曲間で拍手するのをためらうくらい、音楽の余韻に浸ることができました。

あれだけ良い音楽を聴くと、自分も早く歌いたい!練習しなければ!と思いましたね。

コロナ禍で疲れる事が多いこの頃ですが、たくさん良いエネルギーをいただきました。

素晴らしい時間をありがとうございました。

カウンターテナーのレパートリーは古楽に限られている、と思われがちですが、実際はそのような事はなく、歴代のカウンターテナーの方々はロマン派や近現代の作品まで多岐に渡り歌われています。

先日、紹介したドミニク・ヴィスは武満徹のSongs、フィリップ・ジャルスキーはフランス歌曲の録音を残しています。

中嶋さんも同じく様々な時代のものを歌われており、そちらも素晴らしいので2曲ほどご紹介したいと思います。

まず始めにF. シューベルトの「夕映に」をご紹介します。

眼前に広がる夕暮れの美しさや神々しい夕陽の光に、自らの不安な内情や嘆き、悲しみや罪が浄化されていく様が歌われています。

人は心に不安を感じている時ほど、自然の美しさが身にしみ、また自然に癒しを求めます。私も忙しい時や心が荒んだ時には、空を見上げて、心を癒したり軽くするようにしています。特に美しい夕暮れの時は短いですが、儚い美しさがあります。そんな夕暮れの美しさを歌う中嶋の「夕映に」をどうぞお聴きください。

《Im Abendrot 夕映に》

F.シューベルト 作曲 K.G. ラッペ 作詞

次にご紹介する「満月の夕」は、阪神・淡路大震災が起きた1995年に、中川敬さん、山口洋さんが作詞、作曲したものです。彼らは震災後、すぐに被災地へ向かい慰問演奏をしていました。震災当日は満月で、被災地の方から「満月を見るのが怖い」という話を現地で聞いた事がこの曲の作曲のきっかけでした。被災地の人々が懸命に生きていく様子を歌ったこの曲は、今のこの状況にも通じるものがあり、中嶋さんの一言一言が心に染み渡ります。

《満月の夕》

中川敬/作曲 中川敬、山口洋/作詞

この曲は、彼が2021年2月15日にリリースするCD「私の好きな日々」に収録されています。他にも武満徹や谷川賢作、上田知華の作品など、素敵な曲がたくさん詰まった魅力溢れる一枚です。是非彼の素晴らしい日本の音楽もお楽しみ下さい。

さて、この一年は皆さんにとって不安の多い年だったと思います。人と人との間に距離を強いられ、生の音楽も不要不急のものとされ、敬遠されてきました。現在は少しずつ生の音楽を聴く機会も増えてきましたが、まだまだ制限が多く、聴衆側も開催側も常に不安を感じざるを得ません。

それでも生の演奏会には代え難い何かがあると私は思っています。演奏会には演奏者、聴衆が共に作り出すエネルギーがあり、それが人の心を癒し、感動し、そして明日を生きる力となってくれていると思います。

2021年はどんな年になるでしょうか。

皆さんにとって、笑顔と音楽の溢れる素敵な一年となりますように切に願っています。

田尻健

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