今回、コラムを担当させてもらいます声楽家の田尻健です。
このコラムでは主に古楽で活躍している歌手やグループを、私の趣味趣向をもとに気ままに動画や音源を添えながら、その歌手の魅力をご紹介していきたいと思います。
どちらかと言うとフランス寄りですが、どうぞご寛大な心でご覧頂けましたら幸いです。
第1回は<魅惑のカウンターテナー>
カウンターテナーとは、声変わりをした男性が裏声で歌う歌手のことで、その音色は女性には出せない独特なものであり、歌手によって千差万別の魅力があります。
昨今、日本でもカウンターテナー歌手の活躍は目覚ましいですよね。2020年11月のバッハ・コレギウム・ジャパン「リナルド」公演での3人のカウンターテナー、藤木大地さん、青木洋也さん、久保法之さんらの熱演は記憶に新しいです。
17、18世紀に隆盛を極めたカウンターテナーやカストラートは19世紀には影を潜めました。その後、20世紀半ばにアルフレッド・デラーによりカウンターテナーが脚光を浴びます。そのアルフレッド・デラーに学んだのが、今回ご紹介するドミニク・ヴィスです。
私が初めて生で聞いたカウンターテナーは、ドミニク・ヴィスでした。その歌声にものすごい衝撃を受け、初めは少し困惑しましたが、すぐにその歌声に魅了され、演奏会後はドミニク・ヴィスのCDを買っていました。
彼は何度も来日していますし、皆さんもご存知だと思いますが、さらっとプロフィールをご紹介致します。
<ドミニク・ヴィス>
11歳の頃からパリのノートルダム大聖堂の聖歌隊に所属し、ヴェルサイユ国立音楽院でオルガンとフルートを学ぶ。中世ルネサンスの音楽に魅せられ、カウンターテナーの歌唱法をアルフレッド・デラーに学び、ルネ・ヤーコプスやウィリアム・クリスティらと共にバロック期の声楽作品の演奏解釈を深めていく。彼の主宰するクレマン・ジャヌカン・アンサンブルはルネサンス期のフランス語圏で栄えたポリフォニー作品を多数録音し、この分野における先駆者となった。
レパートリーは古楽から現代曲まで幅広く、様々な著名な指揮者と共演している。
それでは曲のご紹介をいたします。
「ソナタ」
ピエール・ド・ラ・ガルド作曲(1717-1793)
コミック・カンタータで、内容もとてもユニークです。
とある作曲家および楽長が、1曲のソナタをリハーサルするというストーリーで、調弦から始まり(ちゃんと調弦を指示する歌詞があります)、楽想をギリシャ神話のキャラクターで示したりと、何処かしこにフレンチオペラの小ネタを挟んでいます。そして最後は嵐のシーン。フレンチオペラでは定番!
最後は「皆さん、私のソナタ、どう思いますか?」という歌詞で締め括られます。
この動画は、その最後のレシ(レチタティーヴォ)とエール(アリア)です。芸達者なドミニク・ヴィスならではの怪演ですね。
それでは動画を見てみましょう♪
彼は演技の中だけでなく、実際に指揮もしています。
2017年12月にパリ1区のサンロック教会でおこなわれた、彼の指揮するシャルパンティエ作曲「真夜中のミサ」のクリスマスコンサートを聴きに行きました。
流麗な音楽にうっとりしつつ、ふと彼の指揮棒に目を向けると、何か違和感が・・・
よくよく見てみると、赤い鉛筆でした。
鉛筆でも、彼が持ってるとお洒落な指揮棒になってしまう。うーん、スタイリッシュ。
さて、小ネタはこの辺にしてもう一曲ご紹介。
クラウディオ・モンテヴェルディ作曲
オペラ「ポッペアの戴冠」より
アルナルタの子守り歌
ポッペアの乳母であるアルナルタは、ネローネとの恋に盲目な若いポッペアを諌めながらも彼女の幸せを願っています。
この場面では、眠りにつくポッペアの幸せを願い、本当の母親のように優しく子守唄を歌います。
ドミニク・ヴィスが歌うその立ち振る舞いは美しく、その歌声はカウンターテナーならではの妖艶な魅力を放っています。所作の一つ一つ、細かな表情、そして指先まで生きているこの感じは、歌い手として、舞台に立つものとして、とても参考になります。
このアルナルタという役はコントラルト、カウンターテナー、そしてテナーで演じられる事があります。3種類の声種で歌われる役は珍しく、それぞれ特色が出ていますので、聴き比べてみるのも面白と思います。
それではどうぞご覧下さい。
ドミニク・ヴィスの素晴らしい動画は他にも沢山あり、厳選するのが難しかったです。彼の主宰のクレマン・ジャヌカン・アンサンブルも素晴らしいので、是非聴いてみてくださいね。
この12月に、世界的に活躍されているカウンターテナー、中嶋俊晴さんが福岡で演奏をされます。
これほどしっかりとカウンターテナーの歌声を聴ける機会は中々ありませんので、皆さんも是非、生のカウンターテナーの魅力を味わってみてくださいね。
詳しくは下記のページをご覧ください。
それではまた♪
田尻健 (たじりたけし)